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大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)360号 判決 1952年12月26日

控訴人 被告 川辺貞吉郎 外一名

訴訟代理人 山田一太郎

被控訴人 原告 杉田善右衛門

訴訟代理人 森岡繁次

主文

本件控訴はいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

本判決は被控訴人両名に対しそれぞれ金二十五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴人両名代理人は「原判決中控訴人等敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

事実関係について、被控訴代理人は「被控訴人は昭和二十二年二月二十七日控訴人川辺との間において、被控訴人は控訴人川辺に対しその製材事業資金を必要の都度短期融通する。利息は月一割乃至一割五分、弁済期は各貸付のときから一ケ月後とすることを約し、これに基く貸金債権の弁済を確保するために、控訴人川辺所有の原判決第一目録記載の建物(以下本件建物と称す)及び同第二目録記載の物件(以下本件動産と称す)を譲渡担保として提供させた。すなわち被控訴人は控訴人から本件建物及び本件動産の所有権移転を受け、かつその占有の移転をも受けた上同控訴人において債務不履行のとき又は被控訴人の担保権侵害となる事由の生じたときは、被控訴人の請求次第何時でも前記担保の目的物を被控訴人に引き渡す約の下に、更に控訴人川辺に被控訴人のため代理占有をさせ、本件建物の所有権移転登記申請をなすについて被控訴人川辺の代理人を選任し委任状に所有権移転登記申請に必要な事項を記載して本件建物を被控訴人名義に所有権移転登記申請をなし得るように、控訴人川辺の白紙委任状と印鑑証明書の交付を受けた。そしてなお控訴人川辺が弁済期に債務の弁済をなさないときは、本件建物及び動産の価格を金三十万円に評価し代物弁済としてその給付を受ける予約をした。被控訴人は以上の約定のもとに、即日金三万円、同年三月一日金十三万五千円、同月十一日金十三万五千円、同月二十七日金十万円、同年四月二十二日金五万円、同年七月一日金七万円、同月九日金十六万円、同月十五日金十二万五千円、同年八月十五日金九万円、以上合計金八十九万五千円を貸し付け、控訴人川辺は内金三十七万五千円の弁済をなし、結局金五十二万円の未払債権を生じた。控訴人川辺は被控訴人の請求にもかかわらず右債務の弁済をしないので被控訴人は昭和二十二年九月頃控訴人川辺に対し代物弁済予約完結の意思表示をなし、同月十九日大阪司法事務局上町出張所受付第九四九二号をもつて本件建物について所有権移転登記手続をした。仮に右予約完結の意思表示が認められないとすれば本訴において右意思表示をする。右のように被控訴人は代物弁済予約完結の意思表示により本件建物及び動産の完全な所有権を取得したので所有権に基いて本件建物の明渡及び本件動産の引渡を求める。仮に前記代物弁済の予約が認められないとしても、控訴人川辺は被控訴人に対し前記貸金債務について不履行があり、かつ本件建物及び本件動産を二重担保に入れ他より強制執行を受け被控訴人の担保権を侵害されるおそれがあるから、予備的に前記譲渡担保契約に基いて控訴人川辺に対し本件建物の明渡及び本件動産の引渡を求める。次に控訴会社は控訴人川辺の一族を株主とし資本金十九万五千円、四分の一払込で設立された会社であるが、控訴人川辺は被控訴人が前記譲渡担保契約、代物弁済予約完結の意思表示によりその所有権を取得した本件建物及び本件動産を昭和二十三年三月五日以降被控訴人に無断で使用させ、現に控訴会社は何等の権限なくこれを占有している。よつて所有権に基いて本件建物及び本件動産の引渡を求める。控訴人の主張事実は否認する。」と述べ、控訴人両名代理人は「控訴人川辺所有の本件建物につき被控訴人主張のような所有権移転登記のなされていること、本件建物及び本件動産を控訴会社が現に占有していることは認めるがその余の被控訴人主張事実は争う。控訴人川辺は被控訴人から金員若干を借用するに当つて白紙委任状等を交付した事実はあるが、控訴人川辺の所有占有する本件建物及び本件動産の所有権及び占有権を被控訴人に移転し、或いはこれをもつて被控訴人に対する債務の代物弁済をなすべき旨の予約をしたこともない。そして前記委任状は本件建物の所有権移転登記手続のため被控訴人に交付したものではないから、被控訴人がこれを濫用して右建物について所有権移転登記手続をしても無効である。本件建物について控訴人川辺から被控訴人に対し根担保的な意味において売渡担保としてその所有権の譲渡をしたことはない。控訴人川辺が被控訴人から金百万円を借り受けたときに始めて売渡担保となすため、予め売渡証書及び白紙委任状を被控訴人に預けておいたにすぎない。仮に根担保的売渡担保であるとしても、控訴人川辺の負担した債務は元金三十六万円であり、而も利息は昭和二十四年三月末日以降最高年一割を限度として計算すべきであるところ、被控訴人に対し昭和二十四年九月二十五日代金三十四万八千二百円相当の材木を代物弁済として給付したから差引残元金約二万円とこれに対する年一割による債務を負担するにすぎないのである。元来売渡担保は内外ともに所有権の移転の生ずることを約束するも、特約のある場合の外、占有権の移転をなすものではないから、仮に本件不動産について売渡担保として信託的に被控訴人が所有権を有するとしても、本件不動産の明渡を求めることを得ないものである。」と述べた。

証拠として、被控訴代理人は甲第一乃至九号証を提出し、原審並びに当審での証人亀田繁吉の証言、原審での被控訴本人の供述を援用し、控訴人両名代理人は原審証人大下秀雄、当審証人福富新司の各証言、原審並びに当審での控訴人本人兼控訴会社代理者本人の各供述を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

まず控訴人川辺に対する請求について考えてみる。

成立に争いのない甲第一乃至九号証に、原審並びに当審証人亀田繁吉、原審での被控訴人本人の各訊問の結果、原審証人大下秀雄の証言(一部)原審並びに当審での控訴本人兼控訴会社代表者本人の各供述(一部)を綜合すれば、被控訴人は昭和二十二年二月二十七日控訴人川辺にその経営する製材事業の資金として金五十万円前後を限度として必要の都度短期融通することを承諾し、利息は一ケ月一割二分、弁済期は各貸付のときから一ケ月後と定め、これに基いて控訴人川辺に対して有することあるべき貸金債権の弁済を確保するため、根担保的譲渡担保として、控訴人川辺所有の本件建物及び本件動産の所有権を被控訴人に移転し、かつ右建物については被控訴人において所有権移転登記をなし得るよう、控訴人川辺は白紙委任状印鑑証明書等を被控訴人に交付し、本件動産については控訴人川辺はこれを被控訴人に引き渡し、被控訴人に改めて本件建物及び本件動産の無償使用を許したこと、被控訴人は右消費貸借の予約に基いて控訴人川辺に即日及びその後数回に亘つて金銭を貸し付け、結局最終弁済期である同年九月十九日現在において金四十三万円の残元金債権を有し、その後控訴人川辺はその支払をしていないことを認めることができる。控訴人両名は右認定に反する主張をなし、殊に右譲渡担保の成立を否認し、控訴人川辺の被控訴人に対し負担した債務は元金三十六万円であり、この元利金に対し材木を給付して三十四万八千二百円の代物弁済をしたと抗争するが、控訴人等の主張に副うような原審証人大下秀雄の証言部分、原審並びに当審での控訴本人兼控訴会社代表者本人の供述部分は、前掲各証拠に比照し信用しがたい。

ところで被控訴人は右譲渡担保契約を締結した際 控訴人川辺が貸金債務の弁済をしないときは、本件建物及び動産の価格を合計金三十万円と評価し、右債務の代物弁済とすべきことを予約したと主張するが、被控訴人の全立証によるも、右予約の成立したことを認めるに足らないから、右予約の存在を前提とする被控訴人の請求は、その余の争点について判断をなすまでもなく失当である。

しかしながら、譲渡担保を有する貸金債権者は、債務者が債務の弁済を怠つたときは、反証のない限り、譲渡担保の効力としてその担保物件を処分換価する(その処分価格が債務額を超過するときは超過額を債務者に返還し、債務額に不足するときは不足額を債務者に請求することができる)ため、担保物が動産であるときはその引渡を、不動産であるときはその所有権移転登記並びに明渡を請求し得るものといわなければならない。右処分換価のため動産の引渡、不動産についての所有権移転登記請求をなし得ることについては論ずるまでもないであろう。不動産の処分換価のためその明渡を請求し得るかについては少しく附言するに、不動産を処分すること自体は、その明渡がない場合でも、できないことはないのであるが、明渡の有無によつて処分の難易が著しく異なる(従つてその処分価格にも甚しい高低を生ずる)ことは公知の事実であるから、換価を容易ならしめるために、債権者は不動産の明渡を請求し得るものと解するのが相当である。されば、反証のない本件においては、前段説明に照し、控訴人川辺は被控訴人に対し、本件譲渡担保契約に基いて、本件建物の明渡及び本件動産の引渡をなすべき義務があるものといわねばならない。控訴人川辺は本件建物については被控訴人に占有権がないからその明渡請求は失当だと主張するが、右主張は理由がない。

次に控訴会社に対する請求について考えてみる。本件建物及び動産を控訴会社が現に占有していることは控訴会社の認めて争わないところであり、被控訴人が控訴人川辺から昭和二十二年二月二十七日本件建物及び動産の所有権の移転を受け、建物については所有権移転登記、動産については占有の移転を受けたことは、前掲各証拠によつて認められ、控訴会社の全立証によるもこの認定をくつがえすに足りないから、本件建物及び動産を占有する正権限のあることについて主張立証のない本件においては、控訴会社は被控訴人の所有権に基く右建物の明渡及び動産の引渡を拒み得ないものといわねばならない。被控訴人は本件建物について占有権を有しないから右建物の明渡は失当である、との控訴会社の主張は理由がない。

されば、被控訴人の控訴人両名に対する本件建物の明渡及び本件動産の引渡の請求を認容した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十三条、第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 田中正雄 判事 神戸敬太郎 判事 平峯隆)

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